【町会短信】

2026年8月 「沼影市民プール」閉鎖の記録が海外映画祭で評判に さいたまローカルが国境を越えた

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 さいたま市の公共プールの最後の夏を記録したドキュメンタリー映画「沼影市民プール」が9月5日から全国で順次公開される。欧州を中心に、数多くの海外映画祭で評判を呼んだ後の凱旋(がいせん)上映だ。ローカルなテーマが国境を越えた関心を呼んだ理由とは。太田信吾監督(40)に聞いた。

◆49日間を追い、「見落としていたもの」を問いかけた

 「『都市開発が見落としていたものは何か』を問いかけた」。JR武蔵浦和駅近くの沼影市民プールは、海のない埼玉の県都・浦和にプールを、という市民の願いから1971年に開業した。「沼プー」の愛称で親しまれ計600万人が訪れた。映画は2023年夏、再開発を理由に閉鎖されるまでの49日間を追った。

 ウオータースライダーや流水プールに押し寄せる人人人…。例年と変わらぬにぎわいの中、映像には廃止の事実を受け入れられないスタッフ、存続を願い署名活動する利用者らが次々と登場する。

◆人が「死」を受け入れる5段階に沿って構成

 周辺はタワーマンションが林立する。ファミリー層が急増し、さいたま市はプールを解体して跡地に小中一貫の義務教育学校を建設することを決めた。貴重な公共空間が失われる−。浦和育ちの太田監督は、地元の友人から話を聞いて取材を始めた。

 住民説明会などで反対する市民の声は届かず「計画ありき」と感じた。構想を練る中で、米国の精神科医エリザベス・キューブラーロスの著書に思い当たった。否認、怒り、取引、抑うつ、受容。人が「死」を受け入れる過程を5段階で示している。住民の思い出が詰まった公共空間の喪失を表現するストーリーを、これに沿って構成しようと思った。

 各章ごとに別れを惜しむ人たちが、さまざまな思いを抱えて「喪失」と向き合う日々を描いた。「建築物や場所でもあっても、喪失自体が人に与える影響は大きい」と狙いを説明する。

 もう一つ、描きたかったテーマがある。プールがゲイの人たちの貴重な出会いの場だったことだ。取材で初めて事実を知り、プライバシーに配慮しながら撮影した。母親にカミングアウトできていないある熟年男性との出会いから、フィクションの要素を取り入れ、彼らの喪失にも焦点を当てた。過去作品でも使った手法で「演技を用いることで喪失と向き合う個人的な葛藤や悩みが少し緩和されると考えた」。

◆「『公共空間』という概念そのものへの哀歌」

 映画はさいたま国際芸術祭(2023年)の公募プログラムとして製作し、仮編集段階で上映。その後、プールが取り壊される様子を撮影して1時間24分の作品に仕上げた。10カ所以上の海外の映画祭に出品。「『公共空間』という概念そのものへの哀歌」(ギリシャ)、「観客それぞれの『失われた場所』を呼び覚ます」(韓国)などと評された。

 市の協力と資金を得て撮影したことには、疑問の声もある。これについては「地元の芸術祭で自省的な視点を持った映像作品が生まれたことは市にとって誇れる部分だと思う」と話す。一方で、市が計画した義務教育学校建設は、昨年から入札不調が3度続いて跡地は更地のままだ。経過は、映画の終盤で報告した。政治的に見られないよう心がけたという。

 「最後の夏」から3年が過ぎての全国公開には、こう語る。「プールが廃止された事実を受け止め切れない人々の喪失を埋めることができたら。義務教育学校の計画も冷静に考え直すいい時間ではないかと思う」(藤原哲也)

 ◇ 

 「沼影市民プール」の上映は、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか。埼玉県ではユナイテッド・シネマ浦和など4館。

【「沼影市民プール」が上映された主な海外の映画祭】

カルロビバリ国際映画祭(2024年、チェコ)

ドック・エッジ国際映画祭(2025年、ニュージーランド)

釜山国際映画祭(同、韓国)

スプリット映画祭(同、クロアチア)

ジョグジャカルタアジア映画祭(同、インドネシア)

テッサロニキ国際ドキュメンタリー映画祭(2026年、ギリシャ)

台北国際映画祭(同、台湾)

Aki−No日本映画祭(同、イスラエル)

DOXAドキュメンタリー映画祭(同、カナダ)

ニッポン・コネクション映画祭(同、ドイツ)

ドックス・バルセロナ(同、スペイン)

詳しくはコチラ(dmenuニュース)

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