【町会短信】

2026年8月 何のために、この愛された貴重なプールが壊されたのか? 跡地の開発、いまだ目処が立たず…映画は訴える

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ありし日の、沼影市民プールの全長100mのウォータースライダー

目にも鮮やかな真っ青なプールで遊び、泳ぐ人たちの幸せそうな顔、顔、顔……。全長100メートルだという、美しい、曲線型のウォータースライダー。そうした心ときめく映像とともに、われわれはその広大なプールが、無惨にも破壊される光景を目にすることになる。

そこにあった日常の風景が姿を消す。そして、その風景=場所に親しんできた人には、悲しい別れとなる──。つねに開発が繰り返される人間の社会では、避けて通れないこと。

しかし、その“開発”が果たして正しかったのか?

さいたま市の沼影市民プールが、その役割を終えた(屋外プールは2023年、屋内プールは2025年まで営業)。1971年に開業し、公共プールとは思えないほど充実の設備で、50年以上にもわたって「特別な場所」とすて人々に愛されてきた場所が突然、小中一貫校の建設地に充てられることになり、取り壊しが決まったのだ。しかしその後、建設業者の入札は不調に終わり、2026年8月の今も、学校建設の見通しは立っていない。

それならば、なぜプールを早急に壊す必要があったのか? 通称“沼プー(ぬまぷー)”を楽しんできた人から、そんな声が上がるのも当然のこと。実際、取り壊しの前には、沼プー存続を求める、1万人以上の署名が寄せられていた。にもかかわらず、この実態。無謀な再開発と受け止められても仕方ない。

人々に愛された場所が無惨にも取り壊される。映画『沼影市民プール』より
人々に愛された場所が無惨にも取り壊される。映画『沼影市民プール』より

子供の頃、沼プーで遊び、ドキュメンタリー映画『沼影市民プール』を完成させた太田信吾監督によると、学校建設の計画が発表された当初から、混乱が起こっていたと振り返る。

「2023年2月の住民説明会に行ったところ、2~3時間、ずっと怒号が飛び交う状態でした。住民の方々の怒りに驚かされ、問題の深さを実感したわけです。そこから調査を開始し、都市開発のプロセスがうまく機能していないことが見えてきました」

なぜ住民からそこまで怒りの声が上がったのか。

「これからも使い続ける前提で、プールの改修工事を終えたばかりだったのです。プールの床が熱を吸収しやすくする“遮熱”の補修などに数億円の税金をかけ、新たなプールとして継続させるはずでした。そして今度は、学校建設の見通しが立たなくなったことで、別の怒りが芽生え始めています」

改修工事を行ったということは、プールを管轄する都市公園課は沼プーの継続を目指していた。学校建設の計画を進める教育委員会との間で、考えが“一枚岩”にならなかったのが現状のよう。そしてそもそも学校の用地が必要になったのは、急激な人口増加によるもの。しかし、そこにも行政の無謀さがあると太田監督は指摘する。

「さいたま市長は何かと市の人口増加をPRに使っています。東京への利便性を打ち出し、人口増加による税収のアップを狙っているのです。でも埼京線の朝のラッシュでわかるように、ちょっと人口増加は行き過ぎの状態です。つまり人口増加都市としての制度設計の甘さが、今回の学校建設の計画で露呈したとも言えます」

映画『沼影市民プール』より
映画『沼影市民プール』より

たしかに人口が増えれば、新たな学校も必要となる。映画を観れば、沼プーの周囲にもタワマンが建ち並び、子供たちの増加も察せられる。そして沼プーの広大な土地は、一見、学校用地にふさわしい。しかし、その発想も安易だったことは太田監督の説明で伝わってくる。

「地域の人に聞くと、“沼影”と呼ばれるくらいなのでもともと沼地で、地盤が緩いらしいんです。洪水になったら大惨事になりかねない。何かあれば建設業者の責任も問われるので、業者側も躊躇する。さらに現在の建設費の高騰で、事業を受けても赤字になるリスクも伴うようになりました」

ドキュメンタリー映画『沼影市民プール』は、おもに沼プーの最後の夏、2023年の49日間の記録で占められる。プールに通った人たち、ライフガードなどプールの職員、プール営業と密に関わった近隣住民の、さまざまな言葉、表情によって、“大切な何かの喪失”をどう受け入れるかが描かれていく。

今後も学校建設のための入札は続くが、この先の状況はまったく不透明。とりあえず更地になった場所には、バスケットボールのコートがオープンするとのこと。

日本ではあちこちで、頻繁に起こっている、こうした再開発問題。映画『沼影市民プール』は、どこに暮らしていても、その問題に無縁ではない…と訴えかけてくる。そこに太田監督の「映画を作った意味」が浮かび上がるのではないか。

「(都市開発の)反対運動の一環として、この映画を撮っていると思われると、一部の人にした届かない可能性があります。やはり市民プールなので、さまざまな立場の人に観てもらいたいという信念で、本作を完成させました。ただ、都市開発における地域住民への配慮や、無計画に進むことの危惧は、作品に込めたつもりです。何より、亡くなった人への“お別れセレモニー”のようなものを、多くの人に愛された場所=プールに対しても行いたかった、というのが僕の気持ちです」

映画『沼影市民プール』は、まだ残暑が残り、プールの水が恋しい9月5日に劇場公開が始まる。https://www.youtube.com/embed/rCy1fqmSGXg?rel=0&wmode=transparent

太田信吾監督
太田信吾監督

沼影市民プール

9月5日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

画像はすべて:(c) hydroblast

詳しくはコチラ(Y!ニュース)

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